発売当初10万円以上していた超広角単焦点レンズTokina FíRIN 20mm F2 FE MFの価格が暴落していたので星景用に買ってみました。Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFは高品位の位置付けで発売当初から一部では高い評価を受けていたレンズのようですが、その性能は如何に?
今回は、超広角単焦点レンズTokina FíRIN 20mm F2 FE MFを星景撮影用としての目線でコマ収差などの性能を作例と共にレビューします。
Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFって、どんなレンズ?
Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFは、2017年1月にTokinaのミラーレス(ソニーEマウント)向け高品位レンズのブランドFiRIN(フィリン)の満を持して投入した第一弾のマニュアルフォーカスレンズで、定価は17万6千円で発売当初の実売価格が12万円程度していた比較的高級なレンズです。光学性能が同じAFバージョンは2018年4月に追加され価格は更に1万円ほど高い設定になっていました。
Tokina FíRIN 20mm F2 FEが発売開始された2017~2018年頃は、ミラーレス向け20mmという超広角レンズはTokinaだけでしたが、その数年後にソニーやニコン、シグマから同じ焦点距離の20mmの明るい新レンズが投入された為、次第に影の薄いマイナーな存在となっていきました。
そして2023年頃、生産終了の為、一気に値崩れを起こし、現在は安いと新品で3万円台、中古であれば2万円台で手に入る非常にお手頃なレンズとなっています。
ケンコートキナー公式ページ | FíRIN 20mm F2 FE MF
主なスペック
Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFは、他社の20mm f2以下のレンズとスペックを比べると外観サイズはややコンパクトですが、金属製で490gとそこそこの重量があり、実際に手に取ってみるとしっかりとした作りで安っぽさは一切感じません。
焦点距離 | 20mm |
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画角 | 92.66° |
最短撮影距離 | 0.28m |
最小絞り | F22 |
絞り羽枚数 | 9枚 |
外形寸法 最大径x長さ | 69×81.5mm |
重量 | 490g |
フィルター径 | 62mm |
防滴防塵 | なし |
マウント | ソニーE |
MFだけど電子接点ありで使い勝手は良好
Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFは、マニュアルフォーカスのレンズですが電子接点があるので光学補正が有効になり、EXIFデータも記録されるので、Adobe LightroomやDxO PureRAWでもレンズプロファイルを自動的に認識できます。
またMFアシスト機能が作動するので、ピントリングを回すと自動的に拡大表示され、ピント合わせも容易で、昔ながらの完全マニュアルレンズとは一線を画しています。
絞りリングは適度なトルク感とカチカチとした軽快な感触があり1/3段毎に調整できます。また、動画撮影にも使用できるようにデクリック機構があり無段階の絞り調整に切り替える事も可能です。
Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFのレンズフードは珍しい角型で見た目はカッコいいのですが、レンズキャップの脱着がしにくかったり、かさばったりと言ったデメリットがあります。ちにみにAFバージョンは、角型ではなく円形の花型フードを採用しているようです。個人的には丸型が好みです。
Tokina FíRIN 20mmのコマ収差の実例
Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFを星景レンズとして使う場合、やはり気になるのがコマ収差(サジタルコマフレア)ではないかと思います。実際に高画素機のSony a7R IVでTokina FíRIN 20mm F2 FE MFを使って、絞り開放f2.0からf4まで1/3段ずつ絞ったコマ収差の変化を比較テストしてみました。シャッタースピードは10秒に統一して、露出が同じになる様にISO感度を変更して調整しています。
絞り開放f2.0
まずは絞り開放f2.0で撮影した画像全体を見てみると、この程度のサイズであればコマ収差は全く気にならないレベルです。若干四隅の周辺減光がありますが、Lightroomなどの現像ソフトで補正すれば問題ないレベルかと思います。
次に絞り値f2.0で撮影した星空の画像の中央と四隅を等倍(100%)でトリミングした画像です。結論から言うと、絞り開放だと四隅のコマ収差はそれなりに発生するので、綺麗な星像で撮影するのは難しいレベルです。今回は6100万画素の高画素機でのテストで細部まで粗が見えてしまうとは言え、期待が大きかっただけに少しガッカリでした。
中央付近は非常にシャープで気になるコマ収差は見られません。明るめの星にフリンジが若干発生していますが、ソフトウェアで簡単に修正可能なレベルなので問題ないと思います。
右上付近は片側に尖った形のコマ収差が発生しました。星が小さためあまり目立ちませんが、明るめの星だとコマ収差がやや発生しています。
左上付近は両サイドの羽を伸ばしたクリオネのような形をしたコマ収差が発生しました。予想していたよりも悪い結果です。
右下が一番控えめですが、それなりのコマ収差です。
最後は左下。結構片方が尖った歪な形のコマ収差が発生しました。
f2からf4の比較
コマ収差が一番目立った左上の部分を等倍(100%)でトリミングした画像を、f2、f2.2、f2.5、f2.8、f3.2で比較してみました。f2.8までは殆ど変化が少なく、f3.2からようやく改善が確認できると言った感じで、f3.5かf4位になるとコマ収差は少し目立たなくるレベルという結果になりました。
一段分絞ったf2.8で、若干の改善が見られますが、まだまだです。
f3.2まで絞ったところで、羽のようなコマ収差の部分が少なくなりました。
Tokina FíRIN 20mmの気になる点
防塵防滴ではない
残念ながらTokina FíRIN 20mm F2 FE MFは防塵防滴仕様のレンズではありません。星景撮影のような比較的過酷な状況下で使用する事を考えると、防塵防滴のレンズの方が安心感はあります。結露しやすい時や冬の寒い時期などは何らかの対策や注意が必要かもしれません。
他社の20mmより画角が少し狭い
一般的な20mmの画角は94.5度なのですが、Tokina FíRIN 20mm F2の画角は92.66度と若干狭くなっています。実際に私が所有しているタムロン17-28mm F/2.8 Di III RXDの20mmとカメラの設定を同じにして画角を比較してみました。
やはりTokina FíRIN 20mmの方が若干画角が狭いのが確認できます。今回はズームレンズとの比較なので多少の誤差はあると思いますが、思っていたより差は無いように感じます。
個体差による当たり外れ
私の場合、某有名中古カメラ販売店で中古品のTokina FíRIN 20mm F2 FE MFを購入しましたが、星空でコマ収差の検証を行ったところ、四隅のコマ収差の出方に違いがあったので、直接トキナーに連絡して画像を確認してもらったら、片ボケしているとの返答が来たので、初期不良という事で返品しました。
トキナー曰く、片ボケは修理や調整すればある程度は改善するとの事で、修理金額は技術料と送料で大体1万円ほどで、新品で片ボケしている個体は保証期間内であれば無償で対応してくれるとの事なので、金額が多少高くても新品で購入したほうが安心です。
結局、私はTokina FíRIN 20mm F2 FE MFを新品で買い直しました!が…、中古で買った個体よりも片ボケがひどく、初期不良で修理・調整してもらいました。片ボケは直りましたが、コマ収差に関しては検証結果の通りで、それなりに発生して、修理・調整では改善しているようには見えず期待外れでした。
Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFは海外でも片ボケに関するレビューが見受けられ、個体の品質にバラツキがあり当たり外れがあるようです。特に中古で購入する場合は、片ボケしていると修理にお金がかかるので注意した方が良いかもしれません。
Tokina FíRIN 20mmの作例
FíRIN 20mm F2 FE MFで撮影した星景写真の作例です。
20mmで比較的画角が広いので天の川と景色が無理なく収まり、星景用のレンズとしては非常に扱いやすいと言った印象です。
総評
Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFは後発の他社の20mm単焦点レンズと数値上のスペックで比べるとf2.0で物足りなさはあるものの、現在の格安価格で考えるとコマ収差はギリギリ許容範囲で星景向けレンズとしては使えなくはないと思います。ただし、Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFは銘玉レンズとは言い難く、良い個体であれば星景用レンズとしては悪く無いのかもしれません。星景をこれから始めてみたい人でお手頃な超広角の単焦点レンズを探している場合は入門レンズとしても良いかと思います。
注意点として、Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFは個体によって当たり外れがあるので、できれば新品で購入したほうが安心です。例え修理・調整したとしても、コマ収差はそれなりに発生するので過度に期待しないほうが良いでしょう。
20mmという広めの画角なので星景タイムラプス撮影にも使えそうです。24mmだとちょっと画角が狭いけど、14mmのような超広角は必要ないみたいなシチュエーションには20mmが丁度良いかもしれません。
Tokina FíRIN 20mmにはAFバージョンもあり光学的な違いはないので、星景以外でも使うのであればAFでも良いかもしれません。ただし、対応マウントはソニーEマウントのみなので、ソニー以外のカメラでマウントアダプターを介して使う事を考慮するのであれば、絞りリングがあるMFを選択した方が無難かもしれません。
FíRINは高品位レンズの位置づけで元々は比較的高額だった事を考えると、片ボケなどの初期不良やコマ収差は少し残念で期待外れでしたが、現在の価格で考えると価格相応な性能なのかもしれません。星景以外の目的で使用するなら格安で非常に良いレンズかと思います。
他社の20mm f2以下の星景向けレンズ
シグマ 20mm F1.4 DG DN Art
シグマ 20mm F1.4 DG DN Artは星景用と謳っているだけあって、スペックだけでなくマニュアルフォーカスロック機能やレンズヒーターが装着しやい構造になっていたり、リアフィルターが装着できたりと星景撮影に最適化されたレンズです。若干サイズが大きい点が気になりますが、予算に余裕があるならシグマ 20mm F1.4 DG DN Artを選択するのがベストかと思います。
- 開放絞り:f1.4
- 画角:94.5°
- 重量:630g
- 防滴防塵
- フィルター径:82mm
- 実売新品価格:新品12万円前後、中古11万円前後
- 発売日:2022年8月
シグマ 20mm F2 DG DN Contemporary
シグマ 20mm F2 DG DN Contemporaryは、スペック的にTokina FíRIN 20mm F2 FEに近く、ややコンパクトなレンズです。歪曲収差や周辺減光がやや目立つといった点がやや気になりますが、コマ収差は比較的良好で解像性能もシャープなので星景レンズとしも悪くはなさそうです。
- 開放絞り:f2
- 画角:94.5°
- 重量:370g
- フィルター径:62mm
- 簡易防滴防塵
- 実売新品価格:新品8万円前後、中古6万円前後
- 発売日:2022年2月
ソニー FE 20mm F1.8 G
ソニー FE 20mm F1.8 Gは比較的コンパクトで総合的に評価の高いソニー純正のレンズですが、絞り開放f1.8だとコマ収差がそれなりに発生するので、星景撮影では若干絞って使う必要がありそうです。価格を考慮するとシグマ 20mm F1.4 DG DN Artが良いかもしれません。
- 開放絞り:f1.8
- 画角:94°
- 重量:373g
- フィルター径:67mm
- 防滴防塵
- 実売価格:新品12万円前後、中古10万円前後
- 発売日:2020年3月
ニコン NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
ニコン NIKKOR Z 20mm f/1.8 Sはミラーレス向けのレンズで、非常にシャープで解像性能が良いと言われていますが、ソニーと同様に絞り開放f1.8だとコマ収差がそれなりに発生するので星景撮影では若干絞って使う必要がありそうです。ニコンのZマウントとなると選択肢が限られ、マウントアダプターで別のレンズを使用するかどうか悩ましい所です。
- 開放絞り:f1.8
- 画角:94°
- 重量:505g
- フィルター径:77mm
- 防滴防塵
- 実売価格:新品14万円前後、中古11万円前後
- 発売日:2020年3月