星景写真の場合、大抵のシチュエーションでは、スタック合成やノイズ除去ソフトを使えば、そこそこのクオリティの写真にすることができますが、星を限りなく点として撮影するとなると赤道儀に勝るものはありません。
赤道儀はセッティングに手間がかかり機動力が悪くなると言った理由から、赤道儀を何となく敬遠してきたのですが、中古のナノトラッカー(35度アングルプレート付き)が格安で売っていたので購入してみました。
星景写真を撮る事が目的で、本格的な天体写真を撮るわけではないので、まずは簡易的なポータブル赤道儀のナノトラッカーを導入したら、どうなるか試し撮りしてレビューしたいと思います。
ポータブル赤道儀ナノトラッカーとは?
ナノトラッカーはサイトロン・ジャパン社が販売している簡易的なポータブル赤道儀で、本体が400gと非常に軽量&コンパクトで、お手頃価格なのが特徴です。赤道儀を導入する際に一番気になるのが大きさかと思いますが、ナノトラッカーであれば追加の雲台などを含めても1kg程度なので、どこへでも躊躇なく持っていけるのは大きなメリットとなります。
ナノトラッカーは広角から標準レンズで数分程度の露出時間の撮影を想定して設計されていて、耐荷重が2kgなので重めの望遠レンズで天体写真を撮りたい人向けの製品ではないので注意が必要です。サイトロン社ではナノトラッカーに赤道儀という言葉は使用しておらず、『星空追尾装置』と言うような表現をしていて、本格的な赤道儀ではないと言う意味合いなのかもしれません。
ただし本格的な赤道儀ではないにしても、十分な精度で星空の追尾撮影ができるので星景写真や簡易的な天体撮影などで、星を点として写して、高感度ノイズを少なく仕上げたい場合は、ナノトラッカーがあると重宝するのではないでしょうか。
私のように広角レンズで撮影する星景写真がメインで、天体撮影にはあまり興味がないような人は、本格的な赤道儀ではなくナノトラッカーで十分かと思います。
ナノトラッカーで試し撮り
広角24mmのレンズでナノトラッカーとアングルプレートを使って撮影してみました。
撮影場所の緯度は約38度、磁北と真北の偏角が約8度。ほぼ水平にして、スマホアプリで真北に合わせ、アングルプレートは35度なので、誤差は3度程度がある状態で撮影しました。
※撮影日は薄雲があり環境はあまり良くありませんでした。
ナノトラッカーの実例と結果
結論から言うと、ナノトラッカー自体はしっかりと星空を追尾して、星を点で写すことができる事が確認できました。広角レンズとは言え露出時間が長くなるほど、ポータブル赤道儀の極軸がズレていると星が線状になってしまい、極軸合わせの重要性を実感しました。
ナノトラッカーなし固定撮影:15秒&30秒
まずはナノトラッカーを使わずに24mmのレンズでシャッタスピード15秒の固定撮影です。500ルールよりも少し短めのシャッタスピードなので、ある程度星が点とし写っています。
続いてナノトラッカーを使わずにシャッタスピード30秒の固定撮影です。拡大しなくても、若干星が線状になっているのが分かるのですが、拡大すると一目瞭然です。24mmだとやはり厳しいです。
ナノトラッカー追尾撮影:30秒
ナノトラッカーを使い24mmのレンズでシャッタースピード30秒の星空追尾撮影です。当然ですが星は点状になり全く問題ないレベルです。
ナノトラッカー追尾撮影:45秒
ナノトラッカーを使い24mmのレンズでシャッタースピード45秒の星空追尾撮影です。星は点状で安心して使えるます。
ナノトラッカー追尾撮影:60秒
ナノトラッカーを使い24mmのレンズでシャッタースピード60秒の星空追尾撮影です。小さい星も点状でしっかりと星を追尾できているのが実感できます。
ナノトラッカー追尾撮影:120秒
ナノトラッカーを使い24mmのレンズでシャッタースピード120秒の星空追尾撮影です。2分の露出時間だと、小さい星が若干線状になりましたが、許容範囲のレベルかと思います。
ナノトラッカー追尾撮影:194秒
ナノトラッカーを使い24mmのレンズでシャッタースピードが約3分の194秒の星空追尾撮影です。固定撮影の30秒の画像と比べると星の伸びは少ないですが、星が点状とは言い難いレベルで少し厳しいかと思います。
ポータブル赤道儀使用時のベストな露出時間は?
ポータブル赤道儀を使うメリットとしては、ISO感度を抑えてノイズを減らし、絞り気味でコマ収差を低減させつつ、星を点として撮影できる事だと思いますが、露出時間を1分以上にしないとこれらを実現するのが難しい事が分かります。
例えば、固定撮影で以下の設定が適正露出だとすると
- 絞りf2
- ISO6400
- シャッタースピード15秒
ポータブル赤道儀を使って同じ露出(明るさ)で、ある程度絞り、更にISO感度を抑えて撮るには、
- 絞りf2.8
- ISO3200
- シャッタースピード60秒
更に、絞りとISO感度の両方を抑えて撮るなら
- 絞りf3.2
- ISO2000
- シャッタースピード120秒
やはり、ノイズとコマ収差を抑えて撮影するには1~2分程のシャッタースピード(露出時間)が必須と言えます。
少し妥協した設定で、絞りやISO感度を犠牲にするなら、シャッタースピードを45秒程度にすることは可能ですが、
- 絞りf2.4
- ISO3200
- シャッタースピード43秒
これ位の設定だと多少ノイズが少なくなる程度で、コマ収差もあまり改善されないので、赤道儀を使うメリットがあまりないかもしれません。レンズにもよりますが、コマ収差を抑えるなら絞りはf2.8以上に設定するのが良いかと思います。
赤道儀のセッティングにかかる時間や手間、荷物が増える事を考えると、中途半端なシャッタースピードで赤道儀を使うなら、そこそこのクオリティになる固定撮影で複数枚をスタックさせる方が良いのではないかと思います。
赤道儀の恩恵を受けるなら正確な極軸合わせ
今回のナノトラッカーの試し撮りでは24mmの広角レンズを使用したのですが、露出時間をより長くしたり、もしくはより焦点距離の長い35mmや50mmを使うとなると、ある程度正確な極軸合わせが必要になってくる事を実感しました。
先述したようにポータブル赤道儀を使った星空追尾撮影なら、露出時間を1分以上にしないと、その恩恵はあまりないような気がしました。広角から標準レンズで露出時間を1~2分にするなら、極軸合わせの誤差を5度以内にセッティングするように心がける事が重要かと思います。
レンズの焦点距離と誤差と露出時間は、以下のサイトが参考になります。
まとめ
実際にナノトラッカーを使ってみて、使い慣れていなくても簡単に扱えて、そこそこの極軸合わせをしておけば、1~2分程度の露出時間で星を点として撮影できるのは非常に良いのではないでしょうか。また、軽量&コンパクトで比較的リーズナブルと言う点でも、本格的な天体撮影はしないけど、星景撮影でポータブル赤道儀を導入してみたい人には、初期投資が抑えられるのでナノトラッカーはおすすめかと思います。
色々なアングルや構図で星景写真を撮影する場合は、固定撮影の方が圧倒的にフットワークの軽くて良いのですが、構図をあまり変えずにじっくりと撮影したい場合には、ポータブル赤道儀を使うのも有りかと思います。TPOに合わせて使い分けると作品の幅が広がりそうです。