軽量&コンパクトで気軽に星空追尾撮影ができるナノトラッカーは、他社のポータブル赤道儀と比べると、機能面では比較的シンプルなので、本格的な天体撮影には不向きですが、その代わりに使い方は簡単で星空追尾撮影の入門機としておすすめです。
今回は、ポータブル赤道儀ナノトラッカーの基本的な設定と使い方、そして重要な極軸合わせの方法を紹介します。
ナノトラッカーの設定と使い方
ナノトラッカーは比較的シンプルな機能のみ備わっているので、使い方は非常に簡単で初心者の方でも迷うことなく使いこなせるかと思います。
通常の星空追尾を行う場合は以下の設定が基本となります。
- 追尾速度:×1(1倍速)
- 回転方向:N(北半球の場合)
- 追尾モード:恒星時追尾
追尾速度
追尾速度の設定は、×1(1倍速)と×0.5(0.5倍速)の2種類がありますが、通常の星空追尾をする場合は星と同じ速度の×1(1倍速)を使用します。
追尾速度×0.5(0.5倍速)は、星も追尾しつつ、地上部分のブレも軽減するというモードになりまが、星と地上の両方が微妙にブレるというモードなので、あまりおすすめしません。露出時間が長くなるほどブレるので、使うのであれば露出時間は短い方が良いかと思います。
北半球か南半球か
ナノトラッカーのコントローラー上部右側にある『N』と『S』のスイッチは、『N』が北半球、『S』が南半球モードの切り替えになります。
北半球では北極星を中心に星が反時計回りに回転するので、ナノトラッカーを『N』に設定すると反時計回りに動くようになります。日本で星空追尾する場合は、モードは『N』で撮影します。
追尾モードの種類
ナノトラッカーには、星空追尾以外にもいくつかの追尾モードがあります。モードの切り替えは、上部右側のスイッチをN→S←Nに動かします。
恒星時追尾
恒星時追尾は、通常の星空を追尾撮影する時のモードです。
パイロットランプ:単またたき
月追尾
月追尾はその名の通り、月を追尾して撮影する時に使用するモードです。
パイロットランプ:2連続またたき
太陽追尾
太陽追尾はその名の通り、太陽を追尾して撮影する時に使用するモードです。
パイロットランプ:3連続またたき
高速回転
高速回転は50倍速で回転するモードで、ナノトラッカーをタイムラプスの自動回転台として使用することが出来ます。反時計回りにカメラを回転させたい場合は『N』、時計回りに回転させたい場合は『S』に設定します。
パイロットランプ:点灯(付きっぱなし)
ナノトラッカーの極軸合わせ方法
ポータブル赤道儀の最大の難関が極軸合わせです。ナノトラッカーの本体には穴があり、その穴から覗いて北極星が見えれば極軸合わせができるのですが、機材の取付位置によっては覗き穴が使えなかったり、撮影場所によっては北極星が見えなかったりと、正直使い勝手はあまり良くありません。
そう言った観点から、緯度と真北から極軸合わせする方法が、場所を選ばずにできるので個人的にはおすすめです。
まずは水平出し
ナノトラッカーをセッティングする上で、三脚を水平にしておいた方がより正確に極軸合わせが出来るようになるので、寸分違わず完璧な水平にする必要はありませんが、レベラーを使ってある程度の水平出しをすることが重要です。
三脚だけでは水平出しが難しいのでレベラー(レベリングベース)を使うのが一般的です。
三脚の水平出しは慣れたらそんなに時間は掛からない作業なのですが、レベラーの使い方に慣れてない人は練習しておいた方が良いと思います。実際の撮影現場は暗い場所での作業で、地面が平らとは限らないので、どんな状況でも使いこなせるようにしておくことが重要です。
真北に合わせる
本当の北である『真北(しんぽく)』と方位磁石が示す北の『磁北』ではズレがあり、磁北は日本列島では西に約6~9度程ズレています。この真北と磁北のズレを偏角と言います。赤道儀の極軸合わせでは真北に合わせる必要があります。
偏角は撮影場所によって違うのですが、本州であれば8度前後なので、磁北を真北に修正するには、東側(時計回りに)に約8度回転させると真北になります。
正確な磁北と真北のズレの偏角を調べるには、国土交通省の地理院のウェブサイトが便利です。
ナノトラッカーのアングルプレートに付いている方位磁石の場合、目盛りは10度ずつなので、磁北と1目盛りの間に合わせれば、誤差は5度以内に収まるので問題ないかと思います。
アナログの方位磁石だと目盛りが小さく暗闇だと見えにくかったりするので、より正確に真北に合わせたい場合はスマホアプリがおすすめです。スマホアプリだと1度刻みで表示されるので微調整がしやすくなります。また、アプリによっては磁北と真北の切り替えができるものもあるので非常に便利です。
仰角を調整する
赤道儀を使う上で一番面倒なのが北極星の仰角の調整です。仰角は撮影場所の緯度と同じにするので、ナノトラッカーを緯度と同じ角度に傾ける必要があります。
アングルプレートを使う方法
面倒な仰角調整する手間を省いてくれる便利なグッズが、35度に傾いたアングルプレートです。東京や大阪辺りの緯度は約35度、北海道と沖縄を除く日本列島であれば緯度が大体30~40度の間で、アングルプレートとの仰角の最大誤差が5度以内に収まる計算になるので、幅広い地域で使う事ができます。
アングルプレートを使用する際、水平出しが出来ていないと仰角が35度にならないので、ある程度正確な水平出しが重要になってきます。また、セッティングする際に念のため、スマホアプリなどで仰角を確認するのもおすすめです。
雲台を使う方法
アングルプレートが無い場合は、微動雲台やギア雲台があると仰角を微調整しやすいのですが、ナノトラッカーに使うにはお手頃価格とは言えません。費用を抑えたい場合は、普段使っている自由雲台でも仰角を調整する事は可能ですが、微調整が難しく手間がかかってしまいます。
ただし、撮影場所の緯度が毎回ほぼ同じであれば、通常使う雲台とは別に、予め角度を調整しておいた状態の雲台を赤道儀用として用意しておくと言った方法でも良いかと思います。
いずれにしても、雲台を使う場合、角度や傾斜が細かく計測できるスマホアプリがあると微調整が簡単にでき、より正確な極軸合わせが可能になります。
星が点として写らない場合
試し撮りして星が点として写らない場合、ナノトラッカーのモードが違う、故障、極軸合わせが出来ていない、もしくは風や振動によるブレなどが原因かと思われます。
失敗の原因は極軸合わせが出来ていない場合が殆んどなので、真北と仰角の2つを再度確認してみて下さい。5度以内の誤差であれば、焦点距離24mmの広角で1分程度の露出時間なら星が線状になることはほぼ無いと思います。真北に関しては、方位磁石が狂っている場合も考えられるので、複数の方位磁石で確認すると確実です。
また、ポータブル赤道儀を使用する場合は、一般的な撮影よりは露出時間が長くなり、風や振動によるブレが発生しやすくなるので、しっかりとカメラを固定することも重要になってきます。
まとめ
ナノトラッカーは機能がシンプルで使い方も簡単なので、ポータブル赤道儀を使った事が無い初心者でも戸惑う事は無いと思います。やはり一番の難関は極軸合わせですが、真北と仰角の2つが合わせられれば、星は点として写るはずです。
頭の中で極軸合わせを理解していても、初めて撮影現場で挑戦すると思ったようにできない可能性があるので、家で練習しておくと良いと思います。三脚の水平出し、ナノトラッカーの取り付け、真北と仰角の極軸合わせなどをシュミレーションして、一連の流れを把握しておくと安心です。