迷惑行為を行う撮影マナーの悪い非常識カメラマンが度々ネットニュースで話題になりますが、SNS映えする写真が撮りたいという一心で身勝手な自己中心的な行動を起こす写真家が年々増えているような気がします。もしかして、あなたも知らないうちに違法行為を行う迷惑カメラマンになり、最悪の場合は科料に処されたり、多額の損害賠償を請求される可能性もあります。
今回は、マナーを守らない身勝手な非常識カメラマンの迷惑行為を弁護士の観点から法律的にどうなのか、法律事務所アルシエンの河野弁護士に聞いてみました。
撮影マナーの悪い迷惑カメラマンの例
写真が第一優先で撮影マナーをわきまえない迷惑行為を行うのは、一部の撮り鉄だけでなく、一般のアマチュアやインスタグラムのフォロワーがたくさんいるカメラマンであったり、時にはプロであったりもします。また、若い人から高齢者まで年齢に関係なく、撮影に夢中になり過ぎるあまり迷惑行為に及んでしまうケースがあるようです。
撮影マナーの悪いカメラマンの迷惑行為の例と、それが法律的にどうなのか弁護士の見解と共に、分かりやすくQ&A形式にしたので、今一度確認して頂ければと思います。
私有地や立ち入り禁止区域への侵入
一般私有地や農家の田畑
人よりも良い構図で撮影する為に、私有地や農家の田畑へ侵入し写真撮影する身勝手な迷惑カメラマン。立ち入り禁止の看板はないが、明らかな私有地であったり、特に農家の方々は、農作物を踏み付けられて損害を被ると言ったケースもあるようですが、法律上どういった罰則が考えられますか?
私有地の中でも塀で囲ってあるような場合には、建造物侵入罪(刑法130条前段。3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)に該当する可能性があります。
また、農地の場合であれば、立ち入り禁止の看板がなくとも、「他人の田畑に正当な理由がなく立ち入った者」として、軽犯罪法1条32号に抵触し、拘留又は科料に処されることがありえます。
寺社や公園などの柵内部
寺院や神社、公園にある柵やロープなどが設けられている内部に勝手に侵入し写真撮影する迷惑行為。場合によっては、注意喚起の看板が設置されて、立ち入り禁止が明らかな場所にも関わらず、我が物顔で侵入し撮影する非常識なカメラマンもいるようです。こういった場合、法的にはどうなりますか?
このような塀で囲まれた土地については、神社や寺院など建物の付属の土地の場合、やはり建造物侵入罪に該当するとされています。
これに対し、ロープで囲まれているだけであったり、建物のない場所であっても、立ち入り禁止の看板がある場所への立ち入りは、軽犯罪法1条の32号の「入ることを禁じた場所」に立ち入ったものとして、やはり拘留または科料に処されることがあります。
線路内
誰よりも良い構図で撮影する目的で、一部の撮り鉄が柵を乗り越え線路内に侵入するといった事例が後を絶ちませんが、一歩間違えれば大事故にもなりかねない大変危険な行為です。
線路内に無断侵入した場合、法的にはどうなりますか? また、侵入したことで電車が緊急停止して運行の妨げになった場合、多額の損害賠償請求の可能はありますか?
鉄道用地への立ち入りは、鉄道営業法37条により、1万円以下の科料に処されることがありえます。また、民事では、不法行為として損害賠償請求の対象になるでしょう。
撮影禁止場所での撮影
美術館や博物館、寺社
美術館や博物館、寺社など撮影が禁止されている場所で撮影する迷惑行為。ストロボ禁止、もしくは撮影自体を禁止している場合も多いようですが、美術品や歴史的価値のあるものを保護する目的で撮影を禁止している場所で、撮影した場合、法的にはどうなりますか?
撮影というのも複製行為なので、後々外部に公開したりする目的で著作物を撮影するのは、著作権侵害に該当しうるでしょう。
また、著作権切れだったり著作物以外の物の撮影など、そうでない場合でも、初めからその目的で立ち入ったとすると、撮影目的の立ち入りは許されていないのも関わらず建造物に立ち入ったものとして、建造物侵入罪が成立する余地があると思われます。
店内や商業施設
お店やショッピングモール、商業施設などでも撮影を禁止している場所はどうなりますか?
上記と同様に、建造物侵入になる可能性があると思われます。
コンサート会場
日本では、ほとんどのコンサート会場では撮影が禁止されていますが、もし撮影したら法律的にはどうなりますか? また撮影した写真や動画をSNSなどに投稿したら、どういった法的問題が考えられますか?
動画の撮影を行うこと自体、録画権の侵害になる恐れが高いものと思われます。また、これをSNSに投稿すれば、公衆送信権侵害にもなるでしょう。
もし個人的な目的の場合はどうでしょうか?
個人的な目的であっても、通常コンサートのチケットには撮影禁止の条件が記載されていることがあり、これに反することはコンサートへの入場に関する契約の債務不履行となるでしょう。そのため、損害賠償を受ける可能性や、コンサートからの退場を命じられる可能性もありうるかと思われます。
三脚禁止場所で三脚を使用しての撮影
多くの観光客が訪れる寺社や観光地では、撮影マナーの悪いカメラマンが増え、三脚を使って一般客の迷惑になるような使い方をしたり、トラブルを招いたりする事から、三脚や一脚の使用を禁止している所も増えつつあるようです。
もし、三脚や一脚の使用を禁止してる場所で、三脚や一脚を使って撮影した場合、法的にはどうなりますか?
態様次第ではありますが、あまりに悪質な場合には威力業務妨害等になることはありうるし、そこまでいかずとも、退場を命じられることはあり得ますし、それに従わなければ不退去罪にも該当することがあります。
三脚の使用がOKな場所であっても、人が多い観光地では、写真を撮らない人にとって、三脚は大きいだけで邪魔な存在でしかありません。混雑している場所や通路で三脚を広げたら、一般観光客の進路の妨げになったり、三脚に躓いて転倒する危険性もあります。
三脚に接触するとキレるカメラマンもいますが、人通りの多い所で三脚を使用しているカメラマンが非常識であり、一般の人は悪くはありません。また、三脚で長時間場所を陣取ったりする行為も一般の人からしたら大変迷惑です。
三脚禁止の場所では使用しないのは当然の事で、三脚なしでも手ブレないようなカメラの設定や撮り方を工夫して、迷惑にならないように撮影するのが常識のあるカメラマンです。
構図の為に植物を傷つける
構図の為に、フレームインする木の枝を折ったり、花や植物を除去したりする自己中心的なカメラマンの迷惑行為です。考えられる場所としては、公共の公園、私有地の庭や田畑がありますが、それぞれ法的にはどのような罰則が考えられますか?
立ち入りの問題があるのは上記のとおりであることに加え、野生のものではなく他人が管理している植物を無断で損壊することは、器物損壊罪に該当する可能性があるものと思われます。
野生の植物であっても、地方の条例で保護されている場合もあるので、基本的には花や植物を傷つけないように注意を払いながら写真撮影するのが最低限のマナーです。
三脚や物を使っての場所取り
撮影スペースを確保する為に、自身がその場所に居る代わりに、三脚やカバン、脚立など物を置いて場所取りをする迷惑行為。写真撮影が目的のカメラマンだけでなく、一般の観光客も来る公園などの公共の場所、公道、または商業施設での場所取り行為は法的にはどうでしょうか?
公道を占拠する行為は、道路交通法に違反する可能性があるものと思われます。そのほかの場所については、その場所の利用規約等に従うことになります。
もし、場所取りをしている三脚などを、本人以外の他のカメラマンや一般の人が無断で撤去したらどうなりますか?
違法になると思われます。場所取りの適法性と関係なく、本人に無断で撤去してよい法的な権利がないためです。そのような場合は、その場所の管理者等に連絡することをお勧めします。
撮影の場所取り行為は、花見の場所取りと同様に公道以外では法的な罰則が適用されないケースが多いようで、結構厄介な問題です。例え法的な罰則がない一般の観光客も来るような場所でのカメラマンの場所取りは、モラルに反する行為であり、迷惑行為であることを自覚するべきではないでしょうか?
明らかに周りに迷惑になっている過剰な場所取り行為であっても、良かれと思って勝手に撤去してしまうと逆に違法行為となり、カメラマン同士での争いに発展する場合もあるので、まずは管理者に連絡して対応してもらうのが賢明かと思います。
勝手に人物を撮影する
観光地や公園などで可愛い子供や女性をメインの被写体として無許可で撮影する迷惑なカメラマンがいるようですが、カメラを向けられ撮られた側にしてみたら気分は良くありません。また、撮影した写真をブログやSNSなどのインターネット上で公開してしまうといったケースもあるようです。
このような勝手に人物を撮影する行為は、肖像権の侵害に該当するかと思いますが、どうでしょうか?
個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌、姿態を撮影されない自由を有しているというのが判例の考え方です。そのため、受忍限度を超えて他人を撮影することは、違法になりえますし、特にSNS等にアップする場合は肖像権の侵害になる可能性が高いでしょう。
人物を撮影する場合は、必ず声をかけて撮影目的を説明し、了承を得るようにするのが最低限のマナーです。
一般の人を邪魔者扱いする
構図内に一般の人がフレームインすると邪魔者扱いして、舌打ちしたり、暴言を吐いたり、罵声を浴びせたりする自己中心的な勘違いカメラマンがいるようです。特に集団でいるカメラマンは同士や仲間意識があり強気になりがちで、自分達の撮影行為が最優先となり、迷惑行為がエスカレートする場合もあるようです。
一般の人に暴言を吐いたり、罵声を浴びせたりした場合、法的にはどうなりますか?
暴言や罵声の内容次第で、「バカ」など他者を貶める内容であれば侮辱罪、「殺すぞ」など、脅すような内容であれば脅迫罪等の成立が考えられるかと思われます。
それぞれの場所では目的が様々な人がいるのが当たり前で、一眼カメラで写真撮影するカメラマンの方が少数派で、逆に一般の人達からすると邪魔者はカメラマンである事を肝に銘じておくと良いと思います。
迷惑カメラマンへの有効な対処法
もし、カメラマンによる迷惑行為の被害を受けたり、目撃した場合、どのような対応をするのが有効なのでしょうか?
被害者
泣き寝入りしてしまうと被害が拡大する恐れがあるので、非常識カメラマンの迷惑行為を食い止めるには、まずは警察への通報、法的手段で訴える場合は弁護士などに相談するのが良いかと思います。
被害者側が法的に訴える場合、どうすれば良いでしょうか?
状況を録画もしくは録音しておくことに加えて、場合によっては、自分だけだと水掛け論になってしまうので、周囲の人にも声をかけて、後で証人になってもらうことも有効です。
目撃者
迷惑カメラマンを目撃したら、その場で口頭で注意するに越したことはありませんが、直接的な被害者でない場合は逆ギレされる可能性があり、あまり強く言えない状況では、迷惑行為の証拠として動画で撮影し被害者へ情報提供をするという方法が有効かと思います。
まとめ
誰もが写真撮影に夢中になると、周りが見えなくなり自己中心的になり、他人に迷惑をかけたり、違法行為を行ってしまう迷惑カメラマンになる可能性があります。また、法的な罰則がないからと言って、カメラマンの迷惑行為が許されるという事ではなく、常日頃から撮影マナーを守り、迷惑が掛からないように心がけたいものです。
もし、カメラマンの迷惑行為にお悩みで法的に何とかしたいという場合は、この記事にご協力いただいた河野弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか?